大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所岸和田支部 昭和33年(わ)61号 判決

被告人 覚野キサ

主文

被告人を懲役四月に処する。

但し本裁判確定の日から弐年間右刑の執行を猶予する。

本件公訴事実中・

被告人が昭和三十三年五月二十九日頃及び同年七月二日の二回にわたり被告人方の女中E子ことA子がBに売春することの情を知りながら被告人方の小間を提供した点についての公訴はこれを棄却する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は肩書住居で「兵忠」という名称で旅館を経営しているものであるが別表記載のとおり昭和三十三年四月二十九日頃から同年七月二日頃までの間前後八回にわたり、被告人方の女中J子ことG子ほか二名がFほか五名に売春することの情を知りながら被告人方の客室を利用させ、以て売春を行う場所を提供したものである。

(証拠の標目)(略)

(被告人の主張に対する判断)(略)

(法令の適用)(略)

(一部公訴棄却)

本件公訴事実中、主文掲記の被告人がA子が売春を行うについてその情を知りながらその場所を提供したことについてこれを売春防止法違反として公訴の提起があつたのであるが、被告人の前掲七月八日付供述調書、A子、C子、G子の検察官に対する各供述調書を考え合せると右A子は被告人方の女中として雇われていた者であるが、同女は昭和十六年二月十七日生であつて未だ十八歳に満たない者であること、被告人もそのことは右行為当時にはよく知つていたのに日頃から同女に売春することを勧誘し、本件売春をするについてもその情を知りながらこれを黙認して旅館の一室を利用させたことが認められる。被告人の供述中右認定に反する部分は信を措き難い。ところで被告人が右のように十八歳未満の児童に対し、特に売春を強制勧誘したものではないけれどもその情を知りながら旅館の一室を利用させて児童に売春の機会を与えこれを容易ならしめ助長したことは児童福祉法第三十四条第一項第六号にいわゆる「児童に淫行をさせる行為」というべきであるから被告人の右行為は右法条に違反し同法違反罪のみを以て問擬すべきものといわなければならない。(尤も被告人は当公廷において右A子が十八歳未満であることを知らなかつた旨主張するけれどもそれを知つていたことは右に認定したとおりであり、仮に知らなかつたとしても児童福祉法第六十条第三項により児童の年令を知らないことを理由として処罰を免れることはできないのみならず、知らなかつたことについて過失がなかつたことを認むべき証拠もないから右主張は理由がない)果してそうだとすれば前記公訴事実に対する公訴は少年法第三十七条第一項第四号により家庭裁判所にこれを提起すべきものであるのに当裁判所にその公訴を提起したことは「公訴提起の手続がその規定に違反したため無効」であるというべきである。よつて刑事訴訟法第三百三十八条第四号に則り右の点についての公訴を棄却すべきものである。

(裁判官 瓦谷末雄)

別表

番号

犯行の年月日

売春婦

相手方

提供した場所

宿料

年月日頃

昭和三三、四、二九

J子ことG子

奥広間

一、〇〇〇円

五、八

I子ことY子

五、一五

五、一八

小間

七〇〇円

J子ことG子

五、二七

六、一四

広間

一、〇〇〇円

七、二

小間

七〇〇円

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例